2025.3.15(土)- 4.12(土)
開廊時間:12:00 – 18:00
日月祝休廊
*同時開催:玉山拓郎 個展「Intervenes / Light and Table / Sound as Time / Hole」
オープニングレセプション: 3月15日 (土) 17:30 – 19:00
玉山拓郎 x 永田康祐によるオープニングトークセッション: 3月15日(土)16:00 – 17:30(予定) *詳細は追ってお知らせいたします
ANOMALYでは2025年3月15日(土)から4月12日(土)まで、永田康祐 (ながた・こうすけ) 個展「鮭になる」を開催いたします。
永田康祐は、美術史上の制度(または問い)の再解釈やアップデート、またシステムやテクノロジーの功罪である合理化が引き起こす効果や諸問題を、ウィットに富んだ手法で描き出す、新進気鋭のアーティストです。
2021年10月ANOMALYで開催された永田康祐の個展「Equilibres」からおよそ3年ぶりになる本展は、永田にとってはじめてのアニメーション作品である《鮭になる》(2024) と、新作の写真作品《Feasting Wild》(2025) を中心に、人間と動植物、そしてそれを取り巻く生態学的・経済的なシステムに焦点をあて、永田康祐の活動を辿ります。
前回のANOMALYでの永田の個展「Equilibres」は、スイスのアーティストデュオ、フィッシュリ&ヴァイスの、1980年代に制作された同名の作品を、現代の情報環境や技術と結びつけ、新たな解釈を与えるものでした。この《Equilibres》(仏語で「バランス」の意味) は、日用品を組み合わせて制作した立体物を写真におさめたものであり、永田はこの作品を「イメージとして流通する彫刻作品」と捉えています。永田によれば、エフェメラルな立体物を、さも彫刻作品であるかのように撮影して記録し、タイトルをつけるこの作品は、彫刻が「出来事」であるということをユーモラスに暴いてみせたものです。そこには、オリジナルの立体 (≒作品) は存在せず、そのコピーとも言える写真に作品としての価値が発生するという逆転の構造があります。
この展覧会は、フィッシュリ&ヴァイスの《Equilibres》を現代のメディア環境や複製技術を通じて考察することで、80年代のマスメディアの時代に制作された「イメージとして流通する彫刻作品」を通じて、現代におけるイメージの問題を捉えようする試みでした。
また永田は、食文化に関するリサーチを通じて、食をめぐるアイデンティティ・ポリティクスや、生政治、植民地主義などの問題に取り組んでおり、こうした関心に基づいてビデオエッセイやコース料理形式のパフォーマンスを発表しています。
《Purée》(2020) では、フランス料理のピュレについての歴史的考察を通じて、摂食する身体とそれを補助する器具や他の身体の関係を描きました。ピュレは現在高齢者や乳幼児など摂食に不自由がある人々のケアのために利用されることが多いのに対して、中世には噛む行為を料理人や奴隷に委譲する、権力の誇示の料理でした。永田にとって、料理とは、単に食材を加工するだけではなく、それを通じて、権力関係が生み出される政治的な場なのです。
《Feasting Wild》(2022-) では、品種改良や家畜化、資源管理など、農業や漁業における動植物の生の管理についてのリサーチをもとに、食材の生産における人間と他の動植物の複雑な絡まり合いが、コース料理とその「お品書き」を模したテキストによって提示されます。この作品は2022年に最初に発表され、「野良になる」展(十和田市美術館、2024)でも上演されました。
本展の中心となる《鮭になる》では、サーモン養殖の現場を舞台に、寄生虫に感染したサーモンと、労働力としての価値を失った「老いた人」という、養殖システムからこぼれ落ちた者たちの関係を通じて、養殖産業における種を超えた搾取と、そこで歪みつつも育まれる絆が描かれています。また、《鮭になる》の制作に際して永田とキュレーターやアーティスト、人類学者らが話し合う様子を記録した映像作品《鮭になる方法》(2024) もあわせて展示されます。
《Feasting Wild》の新作は、これまでパフォーマンスという一時的な形式だったものを翻訳し、写真(イメージ)とテキスト(書かれた言語)で再構成したものです。
永田は、しばしば同じタイトルの作品を異なる形式で発表しており、そこに永田のインターメディア的な関心を見ることができますが、個々の作品の形式はあくまでも慣習的な形式の範囲に収められています。こうした永田の形式に対する態度は、今回同時開催の玉山拓郎個展と隣り合うことによって、より鮮明に浮かび上がるでしょう。
なお今回の二つの個展は、それぞれが個展という形式に則った独自の空間を構成しつつ、もう一方の個展を担う玉山の呼びかけにより、お互いの作品がそれぞれの空間へ「介入」し合います。環境や状況に敢えて左右される展示構成を試みる玉山と、慣習的な展示形態を通じて社会との接続を図る永田。それぞれの異なるアプローチが展覧会という形式の新たなオルタナティブを生み、化学変化を引き起こすことが期待されます。
また、恵比寿映像祭2025 第2回コミッション・プロジェクトのファイナリストに永田が選出され、委託を受けて制作した新作《Fire in Water》(2025)が、現在東京都写真美術館に展示されています(3月23日まで)。ぜひあわせてご高覧ください。
文化庁の在外研修で1年間台湾に旅立つ永田康祐の、近年の活動と思考を紹介する個展です。この好機にどうぞご高覧ください。
永田康祐 (ながた・こうすけ)
1990年愛知県生まれ、神奈川を拠点に活動。
自己と他者、自然と文化、身体と環境といった近代的な思考を支える二項対立、またそこに潜む曖昧さに関心をもち、写真や映像、インスタレーションなどを制作している。近年は、食文化におけるナショナル・アイデンティティの形成や、食事作法における身体技法や権力関係、食料生産における動植物の生の管理といった問題についてビデオエッセイやコース料理形式のパフォーマンスを発表している。
主な展覧会に「恵比寿映像祭2025 Docs―これはイメージです―」(東京都写真美術館、2025)、「野良になる」(十和田市現代美術館、2024)、「イート」 (gallery αM、2020)、「トランスレーションズ展 −『わかりあえなさ』をわかりあおう」(21_21 DESIGN SIGHT、2020)、「FALSE SPACES 虚現空間」(トーキョーアーツアンドスペース本郷、2019)、「あいちトリエンナーレ2019:情の時代」愛知県美術館、2019)、「オープンスペース2018:イン・トランジション」(NTTインターコミュニケーションセンター、2018)などがある。また、主なテキストとして「Photoshop以降の写真作品:「写真装置」のソフトウェアについて」(『インスタグラムと現代視覚文化論』所収、2018)など。