2022年10月29日 (土) - 12月3日 (土)
開廊時間: 火・水・木・金・土 12:00 – 18:00
*日月祝休廊
*ご来場に際してのお願いが文末にございます。
オープニングレセプション: 10.29 (土) 17:00 – 19:00
トークイベント: 11.12 (土) 17:00 – 18:30
登壇者: 衣川明子、長谷川さち、長谷川新(インディペンデント・キュレーター) *敬称略、順不同
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衣川明子《みぎひだり》2022年、キャンバスに油彩、H130.4xW162cm ©︎Akiko Kinugawa
長谷川さち《あわい》2022年、黒御影石、H50xW125xD74cm ©︎Sachi Hasegawa
ANOMALYでは、2022年10月29日 (土) より12月3日 (土) まで、衣川明子・長谷川さち 「川と子」 を開催いたします。
ゆく河の流れは絶えずして、しかももとの水にあらず。よどみに浮かぶうたかたは、かつ消えかつ結びて、久しくとどまりたるためしなし。
鴨長明『方丈記』
衣川明子 (1986年、ニューヨーク生まれ) は、自己と他者との境界、および身体と土地や風景との境界を敏感に感取し、擦り付けるようにして油絵具を薄く何度も塗り重ねる手法により、ぼんやりと浮かび上がり、ゆっくりと変化を続けるような生命のイメージを描いています。
長谷川さち (1982年、兵庫県生まれ) は、石彫の表面全体を覆うように細かく刻まれた鑿 (のみ) の痕跡が、物質の微細な振動を可視化し、空間および鑑賞者の意識と共振するような彫刻作品を制作しています。
本展では、最新作を含む、衣川のペインティングと長谷川の彫刻作品を展示いたします。
衣川明子は、視覚に依って捉えられた形に与えられた言葉/意味の奥にある、世界を構成するすべての生命体が等しく持つ領域と向かい合うため、2017年頃まで、人間 (ヒト) 、犬、猫や、人間と動物が混ざり合った生命体が画面からこちら側 (観者) を眼差す作品を執拗に描いていました。制作を続けるうちに、画面に描かれた顔が意識 (非物質)、絵の具とキャンバスが肉体 (物質) であると感じ始め、対象の顔や身体は融解して不定形へと変容していきます。それに伴い、流動する粒子や発光する色彩が現れるようになっていきました。
衣川明子《合》2022年、キャンバスに油彩、H145.5xW112.2cm ©︎Akiko Kinugawa
2018年からは、この関心をより多角的に追究するため編み出した描画法 「聴いて描く」 をスタートします。現在も定期的に制作されている本シリーズは、モデルに自身の体内に意識を向けてもらい、感情を身体のどの辺りで感じるか、その様子を聴きながら、その人を木炭で描くというものです。複雑に入り組む肉体と感情の関係から発せられる生の言葉/声が、肉体の外側で止まる視覚のフォーカスを緩めさせ、他者との境界を和らげ、衣川の肉体の捉え方に示唆を与え続けています。
これらの実践により、自身の肉体感覚、他者の肉体を捉える感覚が鋭敏かつ柔軟になっていくにつれ、個体の周囲、土地や風景との境界線が曖昧になっていくなかで、近年は、「日本の臍」、「女体山・男体山」 など、物理的なスケールを飛び越えて地形を人間の身体に見立てた、素朴ながらも固定観念を逸脱するイメージに魅了され、人体とその内側である臓器を、山や川などの地形に投影し、重ね合わせて描くようになりました。
さらに、2019年頃からは、「土から人を作る」、「混沌をかき混ぜて島を作る」、「人から他の生物に姿が変わる」、「男女の変換」 などの表現が登場する日本の神話や伝承をリサーチし、実際に自然信仰が残る場所へ赴き、そこで見聞きしたことをモチーフに反映させています。
衣川明子《二》2022年、キャンバスに油彩、H145.5xW112.2cm ©︎Akiko Kinugawa
色を擦り付けて重ねていくと、色の粒が振動しているような、動いているように見えてきて、耳には聴こえない音のように感じる。
その振動がどんな振動なのかみていく。
色の方向、色同士の感情。
色や音は意味を持たないが、形に緩くまとめられても、その色や音の調子はそのまま流れている。
意味や形の遊びに付き合いながら、変わらずそこで振動している。
-衣川明子
一方、長谷川は、古来人々が見てきたであろう景色や、畏怖の対象とされてきた自然現象などを参照しながら、生命の循環や物質が発する振動など、肉眼では捉えることのできない現象や記憶を、石を通じて可視化させようと試みてきました。近年ではガラスも組み合わせ、物質と空間との境界を探っています。
長い年月をかけて生成された石の表面を覆い尽くすように細かく刻まれた無数の鑿跡は、空間および鑑賞者の意識を静かに揺さぶり、石の持つ質量や時間が空間に分散し溶け出していくかのような印象を与えます。長谷川の彫刻は、展示空間に置かれた途端、「異次元への変換装置」 となり、空間を一気に変容させる力を秘めています。
長谷川さち《wood》2018年、ライムストーン、ガラス H50xW27xD26cm ©︎Sachi Hasegawa
最新作《あわい》(2022年) では、渦巻きのような造形が出現しています。ケルト、縄文、アイヌなど、世界各地であまた見られる渦巻き文様には、自然への畏敬の念や祈りの気持ちが込められていました。拡張し増幅し続ける渦巻きのエネルギーが、物質と空間の境界を超えて無限に広がっていくかのようです。
¹⁾自然界は渦巻きの意匠にあふれている、巻貝、蛇、蝶の口吻、植物のつる、水流、海潮、気流、台風の目、そして私たちが住むこの銀河系自体も大きな渦を形成している。
私たちは人類の文化的遺産の多くに渦巻きの文様を見る。それは、人類史の中にあって、私たちの幾代もの祖先が渦巻きの意匠に不可思議さと興味、そして畏怖の念を持っていたからに違いない。
渦巻きは、おそらく生命と自然の循環性をシンボライズする意匠そのものなのだ。そのように考えるとき、私たちが線形性から非線形性に回帰し、「流れ」の中に回帰していく存在であることを自覚せずにはいられない。
一見何もないように見える場所から、目を凝らすとたゆたう小さなエネルギーの粒が集まり何かの物体に変換されていくように思える瞬間があります。石を彫りながら現実との境界線が溶けていくような感覚と、物質と意識の間を行き来することは似ているように感じています。
絵から出た波が彫刻に変換されまた絵に戻り循環していく…今回はそのような空間が生まれたらと思っています。
-長谷川さち
長谷川さち《nebula》2021年、黒御影石、H163xW58xD70cm ©︎Sachi Hasegawa 台座:杉戸洋
「オムニスカルプチャーズ―彫刻となる場所」展示風景、武蔵野美術大学美術館、東京、2021年 撮影:山本糾
²⁾肉体というものについて、私たちは自らの感覚として、外界と隔てられた個物としての実体があるように感じている。しかし、分子のレベルではその実感はまったく担保されていない。私たち生命体は、たまたまそこに密度が高まっている分子のゆるい 「淀み」 でしかない。しかも、それは高速で入れ替わっている。
世界を構成するあらゆる生命体は絶えず動き続け、変化し続けています。ともに人間の視覚では感知できない領域や現象に目を凝らし耳を澄ます、衣川と長谷川各々の作品が響き合い、二人ならではの相互作用が働く展示空間に是非ご期待ください。
会期中の11月12日 (土) には、インディペンデント・キュレーターの長谷川新氏を迎え、トークイベントを開催いたします。こちらは詳細が決まり次第、ArtStickerおよび弊廊のホームページやSNSでご案内いたします。
なお、関連情報といたしまして、衣川は、文化庁の新進芸術家研修制度研修員として、来年から1年間米国ハワイ州に滞在することが決定しています。また、長谷川は、現在、ヴァンジ彫刻庭園美術館で開催中の開館20周年記念展 「Flower of Life 生命の花」 に参加しています。
本文註:
¹⁾ 福岡伸一「生命は分子の「淀み」」『新版 動的平衡 生命はなぜそこに宿るのか』小学館新書、2017年、p.282
²⁾ 福岡伸一「動的平衡とは何か」『生物と無生物のあいだ』講談社現代新書、2007年、p.163
参考文献:
アンリ・ベルクソン『精神のエネルギー』平凡社、2012年
アンリ・ベルクソン『思考と動き』平凡社、2013年
池田善昭、福岡伸一『福岡伸一、西田哲学を読む 生命をめぐる思索の旅』小学館新書、2020年
『project N 83 衣川明子』東京オペラシティアートギャラリー、2021年
衣川明子 (きぬがわ・あきこ)
1986年ニューヨーク生まれ、東京都在住。2012年武蔵野美術大学大学院造形研究科美術専攻油絵コース修了。世界を構成する全ての生命体の奥に限りなく平等な領域が広がっていると考え、擦り付けるようにして油絵具を薄く何度も塗り重ねる手法により、ぼんやりと浮かび上がり、ゆっくりと変化を続けるような生命のイメージを描いている。
主な展覧会に、「絵画、それを愛と呼ぶことにしよう Vol.6 衣川明子」 (2012年、gallery αM、東京) 、「VOCA展2015」 (2015年、上野の森美術館、東京)、「Unusualness Makes Sense – Alternative Art Practices by Thai and Japanese Artists」 (2016年、チェンマイ大学アートセンター、チェンマイ、タイ)、「project N 83 衣川明子」 (2021年、東京オペラシティアートギャラリー4Fコリドール、東京) など。
長谷川さち (はせがわ・さち)
1982年兵庫県生まれ、東京都在住。2006年武蔵野美術大学大学院造形研究科修士課程美術専攻彫刻コース修了。物質の微細な振動や人の気配など、肉眼では捉えることのできない現象や記憶を可視化するような彫刻作品を制作している。2008年よりhino gallery、switch pointなどで個展を開催。
主な個展に 「ロビー展 長谷川さちの彫刻-レイライン」 (2017年、平塚市美術館、神奈川) 。主なグループ展に 「空間に線を引く 彫刻とデッサン展」 (2019年、平塚市美術館、神奈川)、「四次元を探しに-ダリから現代へ」 (2019年、諸橋近代美術館、福島)、「オムニスカルプチャーズ―彫刻となる場所」 (2021年、武蔵野美術大学美術館、東京)、「でんちゅうストラット − つなげる彫刻」 (2021年、小平市平櫛田中彫刻美術館、東京)、「すべてのひとに石がひつよう 目と、手でふれる世界」 (2021年、ヴァンジ彫刻庭園美術館、静岡)、開館20周年記念 「Flower of Life 生命の花」 (2022年、ヴァンジ彫刻庭園美術館、静岡)など。
ご来廊に際してのお願い
*非接触の体温計にて体温測定させていただくことがございます。
*マスクの着用と、入場前に手指のアルコール消毒のご協力をお願い申し上げます。
*発熱や咳等の症状があるお客様はご来廊をご遠慮くださいませ。また検温により、入場時に37.5℃以上の場合、ご入場をお断りさせていただきます。
弊ギャラリーの対応について
・スタッフは全員、毎朝体温を測定し、健康状態を確認のうえ出勤しております。
・換気を行ないながら、営業いたします。
・スタッフは手洗いや手指の消毒をし、マスク着用でご対応いたします。
・お客様がお手を触れる場所の消毒を徹底いたします。
展覧会開廊日と時間について
・今後の社会情勢により、営業時間の変更などや、やむを得ず休廊となる場合がございます。
・最新情報は随時ウェブサイトにてお知らせいたしますので、ご来場前にご確認くださいませ。