2024.4.27 (土) − 5.25 (土)
開廊時間: 火・水・木・金・土 12:00 – 18:00
*日月祝休廊。ただし、5月3,4日の祝日は開廊
オープニングレセプション: 4月27日 (土) 17:00 − 19:00
*作家も在廊いたします。
トークイベント: 5月25日 (土) 18:00 − 19:30
登壇者: 津上みゆき、坂元暁美 (上野の森美術館・学芸員) *敬称略
《View, 20 Pieces, 2020-21, No.02, May-Jun 2020》(2020) キャンバスに顔料、アクリル、その他、H116.8xW237cm ©️Miyuki Tsugami
ANOMALYでは、4月27日 (土) より5月25日 (土) まで、津上みゆき個展「欠片、植物、人の場所」を開催いたします。
この度ANOMALYでの2度目の個展となる本展では、2020年5月から2021年11月まで、およそ19か月間の軌跡をとぎれとぎれの絵巻物のように20点のタブロ-で表現した全長約30mに及ぶ《View, 20 Pieces, 2020-21》とそれに関わるドローイング、ならびに10年振りに取り組んだ新作銅版画《View, Flowers, Places, 2023》10点、さらに最新作を合わせ、50点以上の作品を初公開いたします。
「そこに在るのは些細なこと」展示風景、ANOMALY、2019 撮影:金川晋吾
左:「さらさら、ゆく」展示風景、CADAN有楽町、東京、2022 撮影:三嶋一路
右:「囁く如く」展示風景、NADiff a/p/a/r/t、東京、2022 撮影:三嶋一路
ANOMALYでの2019年の個展以降も精力的な制作が続き、2022年のCADAN有楽町 (東京) での個展「さらさら、ゆく」では過去には入江であった日比谷を、NADiff a/p/a/r/t (東京) での個展「囁く如く」では近隣を流れる渋谷川をリサーチし、それぞれの会場の土地に紐づいた作品を発表。2023年アーティゾン美術館の企画展でも、美術館の建つ場所性を鑑み、かつての水路や外濠周辺を取材、長い歴史の中で行われてきた小さな開発とその中に見え隠れする人々の暮らしを読み解いた作品を発表しました。展覧会の終盤、細長い回廊のような展示スペースに現れた大型の作品群は、その場所との親和性、そして水性の画材の持つみずみずしさで鑑賞者を迎え入れました。これらの連続する三展はいずれも人間という存在とその暮らしに欠かせない「水」が共通のテーマとなっていました。
「ABSTRACTION 抽象絵画の覚醒と展開 セザンヌ、フォービスム、キュビスムから現代へ」展示風景、アーティゾン美術館、東京、撮影:三嶋一路
中央《View, Water, 21 December 2022, 2023》(《View Water 2022-2023》シリーズより) アーティゾン美術館蔵、2023
本展で初公開いたしますシリーズ《View, 20 Pieces, 2020-21》は、これらの展覧会が行われる以前に描かれていた未発表作品です。本作は、津上の真骨頂である日々のスケッチから描かれたシリーズ作品でありますが、描かれた日時も場所も共通した点はありません。唯一、そして私たちも共有できるテーマがあるとすれば、それは「コロナ禍」と呼ばれる時に生まれたことです。
「与えられた均等な時間、もとに戻らないそれぞれの時間、日常の正体を知りたい。それが連作の動機ではないだろうかと、今振り返って思う。もしそうしなければ、この特異な日々のすべてを透明にしてしまいそうだという危機感があったのかもしれない。」2022年3月1日
この津上自身の言葉が示すように、私たちは、この世界を混乱の渦に陥れた事象に翻弄され、流れていく時間の感覚、さらには自身をとりまく出来事の記憶さえ希薄になってはいないでしょうか。
本展のタイトルにある「欠片 (かけら) 」は、津上が描きとめる一片の紙、その紙に点々と残るスケッチや言葉の軌跡、さらには世界を形作る我々を含めた様々な構成要素、そして日々形を変化させながら人間社会の騒ぎを我関せずと、均等に流れる時の象徴としての「植物」、そして時代の変化に呼応しながら人の軌跡としてそこに在る都市「人の場所」という今回のそれぞれの出品作を象徴しています。
《View, 20 Pieces, 2020-21, No.13, Mar 2021》(2021) キャンバスに顔料、アクリル、その他、H116.8xW207cm ©️Miyuki Tsugami
本展出品の新作銅版画は、花や草そして街の景色がモチーフとなり、植物は実物よりも拡大され、街は縮小され、色はモノクロームで表現されています。これは風景を構成する異なる存在を等しく見てみたいという思いからなっていると津上は語ります。
そして、キャンバス作品の《View, 20 Pieces, 2020-21》はスケッチから描くという従来の津上の制作方法にのっとっていますが、特徴的なのはその工程です。今回は様々なサイズのスケッチを、全て同じサイズのドローイングに描き起こし、そこから同じ高さの幅の異なるキャンバスへと展開しています。作家が無意識のうちに行ったこの工程はコロナ禍を生きる中で日々の行動を制限され、マスクで顔を覆われ、他者と繋がれたonlineでは同じような四角いモニターの中にいる存在として人々と同質化した時を過ごしてきたことと関連があるとは考えられないでしょうか。戦争のような大きな出来事により国家レベルで均一化されたのではなく、小さな個人のレベルで均一化せざるを得なかった時間でした。
そして、ほぼ時を同じくして制作された津上の異なるこれら2つのシリーズから見えてくるものは何でしょうか。
いまを生きる作家にとってのスケッチ、風景画は写真の存在しなかった時代のそれらの成り立ちとは全く異なります。今を生きる風景画家が捉えて表現するものから何が見えてくるのか。
コロナ禍が収束したと言われながらも、度重なる天災、争いで、心許ない日々が続いています。様々な事象が発生する今を受け止め、今までも、そしてこれからも眼前にある現代 (いま) の景色、風景画を描き続ける作家にとって、また私たちにとっての「あの時」は何を意味している (た) のか。ANOMALYの空間に並ぶ連作を体感し、改めてそれぞれが振り返り、考える機会になれば幸いです。
*現在、津上は2023年4月1日から続く朝井リョウ氏の日本経済新聞の連載小説「イン・ザ・メガチャーチ」の挿画を担当しています。日々のスケッチから描くという作家の姿勢のもと、小説の内容に付かず離れず並走しながら連載中。2024年4月8日時点で300回となる挿画は6月中頃まで連載予定です。
《View, A Leaf, 28 April 2023》 (2023) カーボランダム、エッチング/アルシュ・アクアレル、image size: H30xW36.5cm ©️Miyuki Tsugami
Courtesy of Edition Works
津上みゆき(つがみ・みゆき)
“View”という眺めや風景だけではなく、見方、考え方といった意味を持つこの言葉を作品に冠し、絵画における視座を広げています。通電設備がなく自然光のみで仕事を続けた倉敷での滞在 (2005年大原美術館によるアーティスト・イン・レジデンス) をきっかけに日々のスケッチが彼女の日常となりました。人がどのように外の世界を私の世界として捉え、自身の視点から尺度や価値観を構築していくのか。現在も未知なる日々を知りたいと、可能な限りありのままに観察した流動の外界をスケッチとして紙上にしるし、キャンバスへと昇華させ、自らの風景が新しい風景として誰かの内的世界に出会うべく制作を続けています。
1998年に京都造形芸術大学大学院芸術研究科修了。主な個展に、2008年「24 seasons -つづけるけしき、こころづく」(スパイラルガーデン、東京)、2013年「View -まなざしの軌跡、生まれくる風景」(一宮市三岸節子記念美術館、愛知)、2016年「時の景、つなぐとき」(ポーラミュージアムアネックス、東京)、2016年「時の景、つもるとき」(ギャラリー・ハシモト、東京)、2018年「時をみる」(上野の森美術館ギャラリー、東京)、2019年「View –人の風景」(長崎県美術館、長崎)。近年のグループ展に、2018年「絵画の現在」(府中市美術館、東京)、2019年「みえるもののむこう」(神奈川県立近代美術館 葉山、神奈川)、2019年「みつめる -見ることの不思議と向き合う作家たち-」(群馬県立館林美術館、群馬)、2023年「ABSTRACTION抽象絵画の覚醒と展開」(アーティゾン美術館、東京) など。
主な受賞歴・滞在制作に、1996年「第7回関口芸術基金賞」により、ニューヨークに滞在、2003年VOCA賞受賞、2005年「第1回ARKO:大原美術館によるアーティスト・イン・レジデンス・プログラム」にて岡山県倉敷市で滞在制作、個展開催。同年京都市芸術新人賞受賞。2013年五島記念文化財団 文化賞美術部門 新人賞受賞によりロンドンに滞在。2015年文化庁新進芸術家海外研修制度、ポーラ美術振興財団、朝日新聞文化財団、野村財団の助成によりドイツ・ベルリンおよびプレンツラウで滞在制作、「津上みゆき展 日本の風景、ウッカーマルクの風景」を開催。2016年「喜多方・夢・アートプロジェクト」にて福島県喜多方市に滞在制作、個展を開催。