2023.7.7-8.5
会期: 2023年7月7日 (金) − 8月5日 (土)
開廊時間: 12:00 − 18:00
オープニングレセプション: 7月7日 (金) 17:00 − 21:00 作家も在廊いたします。
休廊日: 日月祝
*Tennoz Art WeekとTokyo Gendai開催中のため、7月9日 (日) はオープン
*天王洲WHAT CAFEで開催される「CADAN現代美術2023」も7月8日 (土) − 7月10日 (月)に開催予定
《The Theme from Lost Frontier》(2023) ビデオスチル
ANOMALYでは、7月7日 (金) より8月5日 (土) まで、宇治野宗輝 個展 「Lost Frontier」を開催いたしますので、ご案内申し上げます。
宇治野宗輝 (うじの・むねてる、b.1964) は、身近にある家電、ヘアドライヤやエレキギター、自動車などのファウンド・オブジェクトを構成し、大量消費社会の後に訪れる大量廃棄文化へのアイロニーと、アメリカを通して日本に入ってきたロックンロールやインダストリアル・ミュージックなどの輸入文化を考察した作品やパフォーマンスで、その表現の幅を拡張し続けてきました。
DIYの技術で「物質文明のリサーチ」を標榜する宇治野の作品は、20世紀的な発展の象徴である大量生産された「物質」で構成され、時にそれらはつながり合い巨大な姿となり、「モノ」だけが持つ圧倒的な現存を称えてきました。宇治野はブラジルで開催された「gambiologos2.0」の出展の経験から、「全ての工業製品は戦争に通じていて、全てのDIYアクティビティは革命に通じている」という原理を知り、DIYの技術で美術作品を制作することを続けています。
《プライウッド新地》(2017) 展示風景、金沢21世紀美術館、石川、2017
撮影: 木奥惠三
「六本木クロッシング2010展:芸術は可能か?」 (森美術館、2010年) 、ヨコハマトリエンナーレ2017「島と星座とガラパゴス」 (横浜赤レンガ倉庫1号館、2017年) 、「コレクション展/アジアの風景」 (金沢21世紀美術館、2018年) 等に於いて、大規模なインスタレーションで鮮烈な存在感を示した作品はそれぞれ家電などを構成したサウンド・スカルプチュア 「The Rotators (ザ・ローテーターズ) 」 シリーズ、美術輸送用木箱を援用して都市に見立てた 「Plywood City (プライウッド・シティ) 」シリーズ、外来語の概念をカタカナに置き換え受容してきた日本の現状をグラフィカルに表現した「日本シリーズ」 で、いずれの作品においても宇治野の作品の原点は、アメリカナイズされた戦後日本に人工的に組み込まれた、輸入文化とテクノロジーに対する批評的視点でありました。
《トゥエンティワンセンチュリー》(2002) 紙、合板にアクリル絵具
近年、宇治野はイリュージョンを扱うことも命題であるとし、平面的に映し出される映像を多用するようになりました。映像作品《ライヴズ・イン・ジャパン》(2018年) は、インスタレーション《プライウッド新地》を構成していたユニットをそれぞれ独立したキャラクターに見立て、稼働する様をパフォーマンスとして記録し、マルチ・ディスプレイでシンクロさせたサウンド・インスタレーションでした。また《電波街 (Radiowave Quarter) 》(2018年) は、様々な国から発信される短波ラジオを捉えた受信機をライヴ映像として撮影し、複数の映像を同期させた作品で、いずれも宇治野にとって新しい試みの作品でした。
《電波街 (Radiowave Quarter) 》(2018)
ビデオ・インスタレーション: 4chシンクロナイズド・ビデオ、4chサウンド
撮影: 木奥惠三
特に《ライヴズ・イン・ジャパン》に「出演」する家電は全て和室などの日本の住空間で撮影されており、それらの躍動的な姿や、轟々としたビートには、戦後の日本が持つ欧米文化へのストレートな憧憬が顕在化しているかのようです。それぞれのパートは映像=データ化され、今までのモノ (物質) としての存在を失った姿となりました (電気が切れれば、暗転しすべて消え失せる) 。
宇治野の作品は今もなお絶え間なく生産される怪物のような物質文明と同時に、インターネットや情報化により「モノ」が「無」になることを目指している相反した現代について、批評的観点を提示しています。宇治野の創作が物質を扱うことと並行して、映像に向かったのは当然の流れと言えるでしょう。
《ライヴズ・イン・ジャパン》(2018)
ビデオ・インスタレーション: 6chシンクロナイズド・ビデオ、8chサウンド
撮影: 木奥惠三
宇治野は、自宅の台所の窓から陽が差し、そこに無数にあったタッパウエアを通して、半透明なプラスチックの陰が落ちるのを日がな一日眺めた経験から、「陰翳礼讃とプラスチックの相克」という感覚を抱きました。宇治野のヴィデオ三部作の一つ《プライウッド・シティ・ストーリーズ2》でも描かれている、紙と土と木でできた古典的な日本家屋にモダンな家電やプラスチック製品が溢れ、その陰を落とす光景が彼の原点にあります。
大人になって、ポスト・モダンの日本でDIY精神をもって工業製品に対する自分の答え (作品) を出さなければならないと思いたった宇治野は、情報化社会の現代になり「モダンの残骸でAIやロボットと戦っているようで、燃える」と、意欲的に作品制作を続けています。
《プライウッド・シティ・ストーリーズ2》(2018/2020) ビデオスチル
今回の個展のタイトルは「Lost Frontier」 (ロスト・フロンティア)。
かつて存在した、帝国主義の時代の未開拓の地域/境界。動画作品に登場する宇治野の母の故郷である満洲のことであり、彼女が生まれ育った国境の街、安東 (現在の丹東) を指しています。
また、ジョン・F・ケネディが1960年に提唱した「ニュー・フロンティア」についての記述によると、米国の地上のフロンティアは19世紀末に無くなり (Lost Frontier=民族浄化政策の終了) 、20世紀の新たに取り組むべき課題 (人口、生存・寿命、教育、住宅、科学・宇宙、など) を新しい「フロンティア」と掲げたとあります。
六十余年がすぎ、今ではそれらもすでに限界が見えているかつての最先端 (=Frontier) のような、そういったことに向かう人間の欲望は帝国主義的な「Lost Frontier」と同等なもので、本人の20世紀の反省が合わさってビターな感じがしてしまう、と宇治野は言います。
「日本政府がいう『成長』もそうです。そう考えると、産業革命以降の技術全般、それを発展させ、20世紀を通して地球上の全ての都市に均一にいきわたった僕の作品の家電製品なんかも、JFKの時代のド真ん中の花形だったわけで、The Rotatorsのサウンドに未来のLost frontier’s memoryを感じるようになりました」。
《The Theme from Lost Frontier》(2023) ビデオスチル
今回、宇治野が発表する作品は、1) 新作映像作品、2) サウンド・スカルプチュアと映像の複合作品、また3) 日本起源でない巻き寿司シリーズのペインティングの、三つの要素で構成されます。
1) 映像作品 《The Theme from Lost Frontier》《Lost Frontier》
これらは、コロナ禍に制作され、2021年にカナダ、カムループス美術館で開催された「Whose Story?」展で発表された映像作品《Home Movie》が基になったシングルチャンネルの映像作品です。
《The Theme from Lost Frontier》は文字通り、地上の「Lost Frontier」を扱っている作品です。鉄道模型、植民地支配的な広告と観光の絵葉書、土産物のマグカップ等を撮影した映像で構成されます。《Homy & The Rotators》と同等のサウンド・システムの「演奏」にギターと鉄道模型レールと車輪の、インダストリアルノイズ的な音響のヴィデオ作品です。
一方、《Lost Frontier》は、宇治野の実母が語る「満洲」です。宇治野の母は満洲で生まれ、青春時代を過ごし、終戦になると引揚者となり日本に帰国しましたが、その移民の家族の一員としての満洲での個人的な経験は、《The Theme from Lost Frontier》と併せ日本とアメリカと中国 (満洲) との関係を、相対的に照らします。
ジャーナリストではないので自分に関係した歴史であることが自分が扱える歴史であると考え、その基本に忠実にやろうと思った、と宇治野は語っています。
《Lost Frontier》(2023) ビデオスチル
「この映像作品で流れるギターの音は、西部劇映画を観ると、母方一族の満洲におけるストーリー、征服する側と支配される側の関係を重ねて見てしまうからで、昔観た「ガンマン」シリーズのイメージです。どちらも今はない、アメリカの大陸横断鉄道と、南満洲鉄道を配置しました。満洲も、祖父が渡った20世紀初頭は、中国もロシアもどう扱っていいかわからないような広大な「荒野」が拡がる、祖父のような人や、一攫千金を狙う山師が集まるノーマンズランドだったように思います。鉄道模型が導入されているのは、近代において領土の支配と鉄道の敷設はセットになっているので、鉄道を近代のヘゲモニーのシンボルと考えているからです」。
《ホーミー&ザ・ローテーターズ》(2023) ビデオスチル
2) 《ホーミー&ザ・ローテーターズ》
宇治野が2000年代初頭から取り組んでいる、20世紀のマスプロダクトをDIYの技術で再構成したリズム・セクション「ザ・ローテーターズ」と、2017年より開始したナラティブな動画作品の、それぞれの時間軸を統合しようと開始した実験的なプロジェクトです。
コンシューマー・テクノロジーを組み合わせたサウンド・スカルプチュアのビートに乗って、今年100歳になる宇治野の母が生まれ故郷の満洲で最も好きな食事だったいう、餃子の思い出について語っています。
《ホーミー&ザ・ローテーターズ》(2023)
インスタレーション (木、電化製品、楽器用アンプ、ワイパー、ドアミラー、その他)
撮影: 坂本理
3) 日本起源でない巻き寿司のペインティング・シリーズ
日本発の巻き寿司は、邪道と言われながら各地の食材と習慣を柔軟に取り入れることで、異形となって世界各国の食文化に強く根付いています。この変遷は宇治野の「日本シリーズ」でも見られる外来文化の受容形態と独自の変容を絵画化したもので、ポップでキッチュな大衆文化をミニマルに表した作品です。
左)《Spicy Tuna Roll》(2023) 木製パネルにキャンバス、アクリル
右)《California Roll》(2023) 木製パネルにキャンバス、アクリル
本展は、20世紀戦前の植民地主義の元で営まれた極めて個人的な経験や、戦後から今も大量に生み出され続けるマスプロダクトのイメージの断片や記録等で構成されています。それがグローバリズムによって全世界的に普及していく中で、宇治野の個人的経験が大きな外交史に接続し、そこから現代への批評的視点をもとうとする試みです。
満を持した宇治野宗輝の個展です。ぜひご高覧ください。
宇治野宗輝 個展 「Lost Frontier」 展示風景