2025年4月26日 (土) − 5月17日 (土)
開廊時間:12:00 – 18:00
日月祝休廊
*同時開催:高橋大輔「Open Map」
*祝日の4月29日 (火)、5月3日 – 6日 (土・日・月・火) も開廊いたします。
トークイベント:4月26日(土)15:00 – 16:30
登壇者:新城大地郎、本橋仁(金沢21世紀美術館・レジストラー)、辻村慶人(TOO MUCH Magazine・編集長)*敬称略
*誠に申し訳ございませんが、トークイベントの時間帯は展覧会をご覧いただけません。ご注意ください。
オープニングレセプション:4月26日(土)17:00 – 19:00
*全てのイベントに作家が在廊致します。
*お祝花はご遠慮させていただいております。
《Aka 02》(2025) キャンバスに墨、H162xW130.3cm ©︎Daichiro Shinjo
ANOMALYでは2025年4月26日(土)から5月17日(土)まで、新城大地郎の個展「赤」を開催いたします。
新城は1992年、沖縄・宮古島生まれ。現在も宮古島を活動拠点としています。墨と筆を用いた伝統的な書をベースに、その枠を超えた作品で現代における書を追求する今注目の若手アーティストです。2023年にはロサンゼルスのALTA Galleryにて海外初個展となる「Black Wax」を開催、2024年に開催された金沢21世紀美術館の「すべてのものとダンスを踊って – 共感のエコロジー 」展に作品が出品されるなど、国内外で活躍の場を広げています。
新城は民俗学者で禅僧の岡本恵昭(1938-2024)を祖父に持ち、幼少期から仙涯や白隠の作品が身近にある環境で墨を使って自由に文字を書いていました。大学で建築を学び、一度は建築設計に携わりますが、社会や自分に対する違和感から仕事を終えた後に自宅で書くという行為を続け、2017年に個展を開催、本格的にアーティスト活動をスタートさせました。支持体に黒い文字というシンプルな書の構成に基づきながら、太い線と点で解読ができないほど抽象化された文字は、画面の中でエネルギーを発してうごめくような有機的なかたちとなり、空気感を含んだその黒い存在は平面作品にも関わらずどこか彫刻的な印象を見るものに与えます。本展は新城のANOMALYでの初個展となり、近年に身近に連続して起こった出来事から生まれた、今しか生み出すことのできない「赤」*というテーマから制作した最新作のキャンバスと紙作品約25点を発表します。
瞬発的に完成するイメージの強い書ですが、新城の作品は儀式的ともいえる長いプロセスの上に成り立っています。文字の由来を調べ型を知った上で、居心地の良い空間作りから始まり、書くことをひたすら繰り返し、身体と描いたものが一体化する瞬間を探します。最終的には床の上に置かれた紙やキャンバスに全身を使って書きますが、これは「重力のままに自分の体から全てのエネルギーを生み落とす表現をしたい」という新城の思いに基づいています。自ら動物の骨や皮膚から抽出される膠と煤を煮込んで作る墨は既製の墨とは異なって手間がかかり、時間の経過とともに状態が変化する非常に扱いにくい素材です。しかし、モノクロームでシンプルな書の表現において、容易にコントロールできないエネルギーを持った「生きた」自然の素材とその強いテクスチャーが新城の理想とする正直な作品へと昇華するための不可欠な要素となっています。
極限まで抽象化された新城の文字は本来の形を留めておらず、時には認識すら難解なものもあり、作品に付けられたタイトルの概念や表面に在る形だけが目の前に存在することになります。鑑賞者は文字という、文明を導いてきた確固たる存在そのものへの認識が一気に曖昧になるような体験へと導かれ、その先にある自由な世界と対峙します。それは新城が日常的にインプットされる膨大な文字情報に対して違和感や疑問を抱き、社会における文字の存在を問うことと同じように、「不立文字」*(ふりゅうもんじ)という彼が幼い頃から親しんできた禅の思想にも通じていることでしょう。
琉球王朝時代より、戦後のアメリカ統治下時代を経て、日本の中でも独特な歴史を持つ沖縄宮古島は、常に外からの力により変化を余儀なくされてきました。そして今なお大規模な開発で風景や伝統が日々著しく変化しています。その中で民俗学者であった祖父を継承する新城が作品をつくり続ける行為は、宮古島の変わることのない核となる精神文化の探究であり、それは書と融合した新たな表現として紙の上に再生されます。また、新城はローカルな人々に芸術を開いていくこと、そして島内外の人が集うことで皆が様々な視座を持ち、文化発信、創造の場となることを目指し宮古島にオープンしたスペースPALI GALLERYの運営にも力を注いでいます。
効率や利便性が優先され、多くの問題を抱えている現代社会に生きる私たちへの、作家と彼を生み育んだ南島からのメッセージ、新城の新作群にご期待ください。皆様のご来場を心よりお待ち申し上げます。
Note:
*悟りの境地は言葉や文字で伝えられるものではなく疑うことで開かれるという禅の教義
<本展覧会タイトルについて>
本展のタイトルとなっている「赤」という言葉は、見えないけれど存在している動きや生命力を象徴しています。近年、新城の身近で立て続けに起こった「生と死」は、宮古島の死生観において蘇りや再生を表す言葉「スディル」を象徴するようであったと語ります。今回展示されるのは、「赤」というテーマから連想した文字を作品へと昇華した《Aka》のシリーズです。
新城大地郎
1992年、沖縄・宮古島生まれ。静岡文化芸術大学卒業。禅僧で民俗学者の岡本恵昭を祖父に持ち、幼少期より禅や仏教文化に親しみながら書道を始める。禅のほか沖縄の精神文化を背景にして、伝統書道に新たな光を当てる自由なスタイルを追求。身体性と空間性を伴う現代的な表現で、形式にとらわれない書を展開している。
2017年、Playmountain Tokyoで初個展「Surprise」を開催。その後、ロサンゼルスのALTA Gallery (2023年)など国内外で展示を行う。2021年にtricot COMME des GARÇONS、2024年に TAO のコレクションに作品が起用され、2021年にはエルメス制作のドキュメンタリーフィルム「HUMAN ODYSSEY」に出演。2022年には地元である宮古島に「PALI GALLERY」をオープンさせた。2023年、東急歌舞伎町タワーのアートプロジェクトに参加、ホテルエントランスと客室に作品を設置。2024年、金沢21世紀美術館「すべてのものとダンスを踊って – 共感のエコロジー」展に出展。2025年、1970年代の宮古島における祭事行事を記録した故・岡本恵昭の写真と、彼の孫である新城の作品を収録した作品集「SUDIRU」(赤々舎)を出版。