2026年1月17日(土) - 2月14日(土)
開廊時間:12:00 - 18:00
日月祝休廊
*同時開催:青木野枝 版画展 1997-2026
オープニングレセプション:1月17日(土)17:00 - 19:00 *作家在廊
トークイベント:1月24日(土)18:00 - 19:30
登壇者:大小島真木、辻陽介、石倉敏明(人類学者)*敬称略
ANOMALYでは2026年1月17日(土)から2月14日(土)まで、アートユニット・大小島真木(大小島真木+辻陽介)の当ギャラリーでは初となる個展「渦き Resonant Wounds」を開催いたします。
本展はこれまでの大小島真木の代表的なシリーズに、本展に向けて制作された新作を交え、絵画、映像、立体、ドローイング、そして言葉(詩)よって構成される、大小島真木の制作活動のひとつの節目となる展覧会です。
大小島真木はこれまで、出生や死、儀礼や芸能、地質や環境、生命の循環といった、私たちの「存在の輪郭」へと深く分け入ってきました。その関心の根にはつねに、“私たちが〈ある〉とはどういうことなのか”という問いがあります。
大小島真木《胞衣》2019-2022年、アクリル、油絵、顔料、刺繍、土、ラッカースプレー、布、H223xW395.5cm ©︎Maki Ohkojima
2022年から23年にかけて、大小島真木は日本列島の「へそ」とも言われる長野県諏訪地域を訪れ、そこでの滞在リサーチを通して、列島の地質的条件 ―大陸プレートの境界に位置するゆえに火山帯の地震多発地域であるということ― が、列島に住まう人々の世界観にどのような影響を与えてきたのかという問いに向き合い、「根源的不能性」という言葉でその世界観を表しました。それは火を噴き、揺らぐ大地に対する私たちの無力さや諦念を表すものであり、大小島真木はそうした不能性の象徴として、哺乳類の乳幼児の頭蓋に開く大泉門を、列島がその上に跨っている大陸プレートの裂け目―「起源の傷」に重ねています。その背景には起源に開いた傷が、私たちにとっての痛みであると同時に、私たちの生を可能にしている条件でもあるという両義性への眼差しがあります。

大小島真木《Fontanel-シシ》2025年、陶器、H26.5xW32xD21cm ©︎Maki Ohkojima
2024年には大小島真木は文化庁の助成を受けて一年にわたってメキシコに滞在し、同地の歴史や文化をリサーチしています。現代メキシコの根底にあるコンクエスト(征服)の歴史、その侵略の傷と、その傷の上に花開いたメキシコの混淆文化、あるいは今日のメキシコを代表する祝祭である「死者の日」に象徴されるメキシコの死生観― それらはいずれも、是か非かという二項対立には収まりきらない生の複雑さを体現するものであり、大小島真木はそれを「痛みの克服へと向かうのではなく、痛みを抱きしめるようにして生きていく、祈りとしての生のありよう」と言い表しています。

国際芸術祭「あいち2025」 展示風景 大小島真木+アグロス・アートプロジェクト《明日の収穫》2017-2018年 ©︎国際芸術祭「あいち」組織委員会 撮影:ToLoLo studio
大小島真木 個展「あなたの胞衣はどこに埋まっていますか?」展示風景、KAAT神奈川芸術劇場、神奈川、2025年 ©︎Maki Ohkojima 撮影:Norihito Iki
また、メキシコにおいて大小島真木は現地の産婆術に基づく出産を経験しています。出産とはまさに身体の裂け目から新しい命を生成する営みです。大小島真木はマヤ文明時代の名残りをとどめた数々の産育儀礼に参加した経験によって「世界各地の神話や伝承に見られる身体と大地のアナロジーをあらためて体感的に理解することができた」と語っています。

大小島真木《郷土》2025年、アルシュ紙に水彩、鉛筆、H28.6xW37.8cm ©︎Maki Ohkojima
本展のタイトル「渦き(うずき)」は、大小島真木による造語です。それは私たちの生が抱えもつ痛みや脆さの源となる傷(疼き)が、互いに触れ合い、絡まり、響き合いながら渦巻き、世界を形づくっていくさまを指しています。本来、私たちは孤立した個体ではなく、大地の裂け目、身体の開孔部、言葉の切断線、他者との接触痕――そうした裂け目=傷を通じて生かされている存在です。その疼きは、痛みであると同時に、私たちが万物と共にここで「渦いている」ことの証でもあります。
今年、大小島真木が国際芸術祭「あいち2025」(瀬戸会場)にて発表したインスタレーション《土のアゴラ|瀬戸2025》内の映像作品《共煩の掟》には、次のような一節があります。
「綻びは傷である。私たちをつねに疼かせている、塞がることのない傷である。しかし、その傷が私たちを生かしている当のものであるとするなら、その傷はもはや恩寵と見分けがつかない。」
大小島真木は、私たちが「有」であることそれ自体が「無」からの偏り=裂け目としての存在であることだと捉えています。その裂け目はつねに疼いている。しかし、疼きは孤独ではなく、共鳴であり、その共鳴こそが世界を生かしている。今回の展示でそうした生命の「渦き」をテーマとした背景には、「説明しきれない痛みの中で、それでもなお、この生を祝福したい」という大小島真木の思いがあります。

MAQUIS(大小島真木・辻陽介・久山宗成)《Milagros》2025年、翡翠、黒曜石、メタル、時計、陶器、鏡、木材、その他、H90xW65xD7cm ©︎MAQUIS
本展の核となる大作絵画《胞衣》(2022)は、身体と植物、生と死が混淆し、ひとつの巨大な生命圏として蠢く様相を描いたものです。その他、映像や立体など多様なメディアを通して提示されるのは、分断を超えて響き合う「生」のかたち――「渦いている」という、普遍的でありながら極めて切実な世界観です。
本展を通して、あなた自身の「渦き」を見つめていただければ幸いです。
また、会期中には人類学者の石倉敏明氏と大小島真木のトークイベントも開催予定です。人はなぜ歌い、踊り、描いてきたのか―年来親交が深い石倉氏と共に芸術や芸能の起源に迫るトークにどうぞご期待ください。
大小島真木(おおこじま・まき)
東京を拠点に活動する大小島真木、辻陽介からなるアートユニット。「絡まり、もつれ、ほころびながら、いびつに循環していく生命」をテーマに制作活動を行う。インド、ポーランド、中国、メキシコ、フランスなどで滞在制作。2017年にはTara Ocean 財団が率いる科学探査船タラ号太平洋プロジェクトに参加。近年は美術館、ギャラリーなどにおける展示の他、舞台美術なども手掛ける。
主な個展に、「あなたの胞衣はどこに埋まっていますか?」(2025年、KAAT神奈川芸術劇場、神奈川)、「Sobre los Ombligos de Este Planeta」(2025年、Fundacion Sebastian、メキシコシティ、メキシコ)、「千鹿頭 A thousand Dear Head」(2023年、調布市文化会館 たづくり、東京)、つくりかけラボ09「大小島真木|コレスポンダンス/Correspondance」(2022年、千葉市美術館、千葉)、「鯨の目/L’oeil de la Baleine」(2019年、パリ水族館、パリ、フランス)、「鳥よ、僕の骨で大地の歌を鳴らして。」(2015年、第一生命ギャラリー、東京)など。
また、「国際芸術祭あいち2025」(2025年、愛知芸術文化センター/愛知県陶磁美術館、愛知)、「地つづきの輪郭」(2022年、セゾン現代美術館、長野)、「世界の終わりと環境世界」(2022年、GYRE GALLERY、東京)、「コロナ禍とアマビエ」(2022年、角川武蔵野ミュージアム、埼玉)、練馬区立美術館開館35周年記念「Re construction 再構築」(2020年、練馬区立美術館、東京)、「青森EARTH2019:いのち耕す場所 -農業がひらくアートの未来」(2019年、青森県立美術館、青森)、「瀬戸内国際芸術祭 2019」(2019年、粟島、香川)など、国内外の展覧会に多数参加している。
主な出版物として『ウオルド』(作品社)、『鯨の目』(museum shop T)など。2023年より、かねてより制作に関わっていた編集者・辻陽介との本格的な協働制作体制に入り、以降、名称をそのままに、アートユニットとして活動している。

©︎Aki Kawakami