2026年4月11日(土)ー 4月18日(土)
開廊時間:12:00 – 18:00
日月祝休廊
トークイベント:4月11日 (土) 16:30 – 18:00
・登壇者:宇治野宗輝 、涌井智仁(美術家・音楽家)
オープニングレセプション:4月11日 (土) 18:00 – 19:00

ANOMALYでは、2026年4月11日(土)から4月18日(土)まで、6日間限定で宇治野宗輝の近作ビデオスクリーニング「SWEET HOME C」を緊急開催いたします。
宇治野は大量生産された家電やエレキギター、電動工具などを用いて制作したサウンド・スカルプチュアを組み合わせ、インスタレーションや映像作品として発表しています。
近年は、自身や家族の物語をモチーフに、個人的な営みの記憶の断片や、日常的な物質や事象を通して、日本の近代化、それに続くポスト・モダンの大量生産・大量消費型モデルへの転換、グローバル化の影響を検証する作品を発表しています。
戦争の連鎖が絶え間なく続く現代を背景に、本スクリーニングでは、満洲に生まれ同地で終戦を迎えた宇治野の母の記憶に基づく作品を一挙に紹介します。

ANOMALYでの2023年の宇治野の個展「Lost Frontier」は、コロナ禍で外出自粛を余儀なくされたことを機に、これまで何度も耳にしていた自身の母の満洲での経験を撮影したことで生まれた作品を中心に構成した展覧会でした。多くの人々が開拓民として渡ったフロンティア、満洲での、終戦をむかえ引き揚げるまでの母の個人的な経験は、日本とアメリカ、中国 (満洲)という国家の関係を、相対的に照らすものでした。また、展覧会に向けた一連の作品の制作を通して、宇治野は自身が移民の子孫であるという思いを強く感じるようになったと言います。
同展出品作の《ホーミー&ザ・ローテーターズ(Homy and the Rotators)》(2023)は、宇治野が2000年代初頭から取り組んでいる、20世紀のマスプロダクトをDIYの技術で再構成したサウンド・スカルプチュア(ザ・ローテーターズ)のビートにのって、宇治野の母が生まれ故郷の満洲で最も好きな食事だったいう、餃子の思い出を語る作品です。
この作品を本スクリーニングにあわせて再構成した作品が、《スイート・ホーム・C(SWEET HOME C)》(2026)。母の語りにはかつて過ごした街、安東(現・遼寧省丹東市)の様子が重ねられ、サウンドには、ミニマイズされたアメリカの音楽の構造が反映されています。郷愁を込めて語られる餃子のエピソードに対して、アメリカ文化を享受した戦後の日本に、東京オリンピック開催の年に生まれた宇治野の出自があらわれたサウンドが掛けあわされていると言えるでしょう。

この他、昨年開催された千葉国際芸術祭2025で発表された《ロスト・フロンティア/ルートホーム(Lost Frontier – Route Home)》(2025)およびその原型となった《ロスト・フロンティア》(2023)もあわせて上映します。
《ロスト・フロンティア》も、母の満洲での体験をテーマとした作品ですが、そこにあらわれるのは戦況の変化に伴い翻弄される市井の人々の姿です。作品中には、戦争や開拓に重要な役割を果たし、近代のヘゲモニーの象徴である鉄道が、戦後、アメリカ文化や消費社会が覇権を広げる様に重ねられて登場します。千葉国際芸術祭の舞台となった千葉には、かつて大日本帝国陸軍所属の鉄道連隊を中心とした大規模な軍備施設が置かれていたことから、より鉄道にフォーカスをあて新たに制作された作品が《ロスト・フロンティア/ルートホーム》(2025)です。本作ではアメリカのフィルターを通した第2次大戦の記録が作品の軸(レール)となり、母の引き揚げの道のりをなぞりながら、かつて日本が植民地とした国の人々へ眼差しが向けられています。彼の地での幸福な思い出とともに語られていたのは贖罪の思いだったと、宇治野は今はなき母との日々を振り返ります。作品に挿入された現在の韓国の街の姿や、ブルースを思わせるサウンドには、移民の子孫である宇治野の、隣国の人々への敬意が込められています。

この他、社会が情報化され「モノ」の質量が失われ、物質に対する感性が希薄になった今だからこそ、自らの手で、DIY精神をもってポスト・モダンに対する自分なりの答えを出さなければならないと思いたち、制作をはじめたという「プライウッド・シティ・ストーリーズ(Plywood City Stories)」もあわせて展示いたします。
技術革新が進み新たな時代を迎えた現代の日本は、同時に、戦争を体験した最後の世代を失っていく時期であり、また一挙に開発が進んだ近代のインフラに綻びが出始めている時期でもあります。
日々進化を遂げる世界と歩みをともにする一方で、現在と地続きにある過去を認識し、自らの手でその綻びを修復すること、その両輪がこれから求められていくのではないか、と宇治野は言います。
宇治野の作品は、自らの寄って立つ場所を再認識し、そこから歩を進めるうえで多くの示唆を与えることでしょう。
6日間という非常に短い会期のスクリーニングです。お見逃しのないようぜひご高覧ください。
作家によるテキスト
今回、私にとっては初めての、シングルチャンネルの映像作品だけで構成される展示を行います。
最初に制作した作品は、2017年にサウンド・スカルプチュアの劇場的なインスタレーションを制作した際にその一部に組み込む形で展示された、作品の背景となる物語を私自身のモノローグで語る《プライウッド・シティ・ストーリーズ1》でした。「プライウッド・シティ・ストーリーズ」シリーズは、メインの作品に対する補助的な位置付けでした。物語の舞台は、20世紀後半の私の本拠地である東京の西部郊外が中心で、戦後の日本とアメリカとの関係がシリーズの軸になっています。このシリーズに取り組むことで、個人と、とりまく状況や大きな力との関係やそれらの影響について、自分自身の問題を考察し、整理することになりました。「プライウッド・シティ」とは、郊外の住宅地でよく見かける、住宅メーカーが現在の一般的な工法で住宅を新築する際、建築途中のある期間、合板でできた同じ形の箱が立ち並ぶようになる様をそう名付けたものです。個人の住宅も、工業製品を洗練されたやり方で効率よく組み合わせて出来上がるようになった、成熟した消費社会を象徴しています。
その後、すべての工程を一人で担当する同様の方法で、継続して映像作品を制作しています。DIYで制作するシングルチャンネルのナラティブな映像作品なので、この形式を「DIY映画」とも呼んでいます。
会場のメイン・スクリーンで上映予定の「Lost Frontier」シリーズ2作品と《SWEET HOME C》の舞台は、20世紀前半の中国東北部、帝国主義の日本の実質的な植民地であった旧満洲です。私の母方の祖父は、日露戦争で日本が権益を獲得した20世紀初頭の満洲に移住し、母が1923年に生まれました。制作のきっかけは、COVID-19でした。カナダでの展覧会に参加予定だったところ、世界的にヒトやモノの移動が制限された際に、「プライウッド・シティ・ストーリーズ」シリーズのやり方をもとに、当時隣に住んでいた母の語りを中心に、新たに20世紀前半の個人と大きな力の関係を主題とした作品を制作してデータで送ろうと考えました。作品内のエピソードは、今まで何度も聞かされて全てよく知っている内容でしたが、興味深かった点は、とりとめない話をしていても、豊かだった少女時代の幸福な思い出と中国に対する贖罪の気持ちの両方が現れることでした。当初「Home Movie」と名付けられたプロジェクトは何度かの修正を経て「Lost Frontier」シリーズ、《Homy and the Rotators》、《SWEET HOME C》となりました。今回のタイトルにもある「Home」は家、家族、仲間、Home Town——地元、Home Country——母国、故郷であり、個人のアイデンティティと切り離せない重要な場所を指している言葉です。私は、COVID-19により世界が停止したことで「Home」について、より多面的に考えることになりました。
この原稿を書いている2026年3月19日未明、依然として世界の秩序は揺らぎ、緊張状態が続いています。4月11日に状況がどう変化しているのか想像できませんが、今回の発表は大きな意義のある重要な機会だと考えています。

1964年東京生まれ、東京在住。
主に、大量生産された家電やエレキギター、自動車や建築資材や電動工具など、20世紀に完成した工業製品を用いて制作したサウンド・スカルプチュアを組み合わせ、インスタレーションや映像作品として発表している。近年は、自身や家族の物語をモチーフに、個人的な営みの記憶の断片や、日常的な物質や事象と、近代のヘゲモニーの象徴である軍事や鉄道などが対比的に重なり合う作品を発表している。
主な展覧会に、千葉国際芸術祭2025 ちから、ひらく。(2025)、「Lost Frontier」ANOMALY(個展、2023)、ヨコハマトリエンナーレ2017 島と星座とガラパゴス(2017)、「Audio Distortion does not Distort Matter」(個展、下山芸術の森 発電所美術館、2016)、「Mash Up: The Birth of Modern Culture」(バンクーバー美術館、2016)、「POP/LIFE」(個展、箱根彫刻の森美術館、2013)、ビエンナーレ・オブ・シドニー(2006)など。
コレクション:
金沢21世紀美術館、金沢
森美術館、東京
アートソンジェセンター、韓国