2019年10月19日(土)- 11月9日(土)
オープニングレセプション: 2019年10月19日(土)18:30 – 20:00
パフォーマンスイベント:2019年10月19日(土)19:00 – 19:30
*入場料無料
*パフォーマンス中も開発・小林の展示はご覧いただけます。
Gallery hours: 11:00-18:00, 11:00-20:00 (金)
定休日: 日曜・月曜・祝祭日
Roll
1998、ビデオ、15分 25秒
©︎Yoshiaki Kaihatsu
開発好明(かいはつ・よしあき b.1966)は、 1993年に多摩美術大学大学院 美術研究科修士課程を修了。在学中より積極的に発表を続け、国内外で多くの個展を開催、グループ展にも多数参加し、2001年岡本太郎現代芸術賞優秀賞を受賞。2004年にはヴェネチア・ビエンナーレ第9回国際建築展日本館の作家として選出され、代表作ともいえる発泡シリーズが大きな注目を浴びます。NY、ベルリンなど海外での滞在制作も多く、ベタニアン(ベルリン、ドイツ、2004年)にてレジデンス、ZMK(カールスルーエ、ドイツ、2005年)、ノイエナショナルギャラリー(ベルリン、ドイツ、2006年)での展覧会にも参加してまいりました。2016年には市原湖畔美術館(千葉)にて大規模な個展「中二病」を開催。90年代の作品から新作まで、館内外を使ったスケールの大きな展示を行いました。六甲ミーツ・アート(兵庫)や越後妻有 大地の芸術祭(新潟)、いちはらアート×ミックス(千葉)などの芸術祭でも多くの鑑賞者を取り込むユーモラスな作品や活動が取り上げられています。現在開催中の「あそびの時間」(東京都現代美術館、東京、2019年)では、作品の出品と合わせて“木場のダメパンダ”としてパフォーマンスも行っています。
2011年に起きた東日本大震災の際には、トラックに作品を詰め被災地を巡回、アートによる心の繋がりを運ぶ“デイリリーアートサーカス”を立ち上げます。また、原発事故後の南相馬に“政治家の家”という休憩所を建て、まずは現地へ足を運び、今後の日本について考えてもらいたいと政治家へ招待状を送り続けました。これらのプロジェクト以前にも、1995年ナトリウム漏洩事故が起きた高速増殖原型炉「もんじゅ」や2001年アメリカ同時多発テロに関わる作品など、社会の出来事、在り方を見据える姿勢は、開発の制作において重要な柱の一つとなっています。
作品の膨大さ、アプローチの多様さから作家としての全貌を捉えることが容易ではなく、そうされることを意図的に避けているともとれる開発の活動を再考すべく、今回の展覧会では、初期ビデオ作品をまとめて展示いたします。1998年アジアン・カルチュラル・カウンシルの助成金を得てニューヨークに滞在中、ワンカット、ワンアクションというシンプルな方法でパフォーマンス作品を制作しました。可能な限り感情やストーリーを排除し、自ら決めた行為のみを行うこのルールをもとにつくられた作品のひとつが「Roll」です。前転し続ける開発の背景には2001年9月11日にアメリカ同時多発テロ事件の標的となったワールドトレードセンターが映っています。図らずも作品の中に映り込んだ歴史的事件の現場は、現在の鑑賞者にとってどのように映るのでしょうか。シンプルな行為の背景にあるものは、時として複雑さを持ち合わせ、行為の対比として立ち現れます。
BankART1929代表・池田修氏は、開発好明のことを吉本隆明氏の『転位のための十篇』を引用し「ひとり民主主義」と評しました。あくまでも個人の営みをベースに社会やそこに生きる人々にユーモアを持って対峙し続ける稀有な作家であると言えます。
本展は80年代より精力的に活動を続ける開発好明の、初期の重要作品をご覧いただく好機となります。
1992年6月 僕はドイツのドクメンタ9に向かった。
美術雑誌で知った5年に一度の国際展。チーフキュレターはヤン・フート氏で日本でも
展示を行っていたので、それもあって行きやすかったのかもしれない。
5年に一度という事もあり、美術界のオリンピックなのだと思い込み、呼ばれてもいない世界の舞台で玉砕するために、天使の格好で体にビデオ作品を貼り付け、会場内で2週間毎日6時間ほど滞在し続けた。目的は、排除される事。世界の舞台で排除される事で、自身のアーティストの出発点としたかったのだ。
しかし、幸か不幸か毎日怒られることもなくパフォーマンスをし続け、しまいにはヤン・フートまで作品を覗き込んで行く始末。美術館内で行う僕のパフォーマンスは、観客には出品作家としてしか目に映らなかったのだ。
また、抱えた台座の上に「私はあなたのオモチャ、名前は開発」と書かれたカードを置き、誰でも手に取る事ができた。これは、常にあなたの側で作品を作り続けたいという意味を込めている。
こうして作家としてのスタートを切れた。
それから数年して、念願のニューヨークに行くことになる。
最初は怖くて、夜8時には部屋に戻り、サイレンと何かの弾ける音にビクビクしていた。
数週間して夜9時ごろ外に出ると、子供が犬の散歩をしていて案外安全なんだと気づく。
長い間、たいした事もせず戻ってきてしまったという記憶だったが、今回の展示のために資料をひっくり返していたら、なんだかんだ毎月1本パフォーマンスや、インスタレーションや作品を作っているじゃないか。
当時は、来たのが遅すぎたと思っていたけど、まだチクチクするようなNYの雰囲気と訳も分からず期待に胸を膨らませた作家のパフォーマンスが、画面に映し出されている。
見れば懐かしくもあり、変わらずあり続けると思っていた物が消えていたり、否応無しに映像は時代を写し取っている。
2019年9月20日 開発好明
*同時開催・小林耕平個展