2019年4月20日(土) - 5月25日(土)
オープニングレセプション: 2019年4月20日(土) 18:00 – 20:00
Gallery hours: 11:00-18:00, 11:00-20:00 (金)
in cooperation with Jiro Miura Gallery
© Sawako Goda[/caption]
ANOMALYでは、2019年4月20日(土)から5月25日(土)まで、合田佐和子個展を開催いたします。
1940年高知県生まれの合田佐和子は、戦後の焼け跡で、空襲で焼かれ溶けて用途も意味も失った金属破片や時計などのガラクタ、また石や貝殻や骨など驚異的なフォルムを持つ自然物を拾い集めるなど、幼少の頃から造形美に大きな興味を持ち始めます。1959年に武蔵野美術学校(現武蔵野美術大学)に入学、1963年に同校を卒業した後、唐十郎主宰の劇団「状況劇場」、寺山修司主宰の「天井桟敷」の舞台美術や宣伝などに参加します。
1965年より個展を開催し始め、当初は立体作品を発表。のちに1971年頃から絵画を制作するようになり、1981年よりポラロイド写真展を開催するなどその活動は多彩で、1982年には第一回現代芸術祭「瀧口修造と戦後美術」に取り上げられ、1991年には渋谷パルコで個展を開催するなど、多様な活動を深めていきます。2001年には高知県立美術館で「森村泰昌と合田佐和子展」など、シネフィリならば必見と思われる文脈で展覧会を開催、そして2003年には松濤美術館で個展が行われるなど、2016年に鬼籍に入るまで、精力的に活動を続けたアーティストです。唐十郎、寺山修司や瀧口修造、巖谷國士だけでなく、三木富雄、久里洋二、蜷川幸雄など時代を象徴するような人物との交流を持ち、時代のミューズ的な存在であっただろうと想像できます。
1985年にエジプトに移住するも、翌年に帰国。1988年ごろ霊的なインスピレーションを受け、オートマティズム(自動筆記)で描かれたドローイングを多数描くようになり、89年にはオートマティズムが嵩じて入院しますが、それ以後も世田谷美術館のワークショップで講師、唐組公演の宣伝美術を担当、また2001年の高知県立美術館「森村泰昌と合田佐和子」展では、新作「ロゼッタ・ギャラクシー」を発表するなど、制作はもとより、開催された展覧会は数多くあります。
合田自身が言うように、その作品は「レンズ効果」で言い表すことができます。巖谷國士が「レンズによって現実を『超現実』に変える光学装置は、じつは人間の『目』のことでもある」(*1)とその作品を評したように、亡くなるまでの十数年間は、巖谷に会うたびに「目」の話しをしたと記されています。
レンズ効果、と考えると、光田ゆりによって「水晶、オパール、貴石を透過して浄化された光の依り代が、ポートレートである」(*1)、と語られるのも理解できます。合田が描いてきた絵画は、人物像が多く、それもよく知られた映画スターでした。いわば「異形」としての存在であり、メディアで消費され尽くしたスターたちのポートレートは、裏面で重く傷ついていたことを、直感的に感知していたのではないだろうか、と光田は続けています。
凝ったスタジオのライティングで撮影されたスターたちの写真は、高度な技術により修正され、印刷され、本来の姿ではありません。こういった図像の転換を経る過程は、物体から遠ざかってエネルギーを帯びる図像に、人工的に制作されていますが、それが合田にとっては魅力的で痛々しく感じられ、彼女の感覚と画力で昇華されています。
合田が描く映画や舞台スターの絵画は、文筆家の坂東眞砂子に依れば、「死の世界の銀幕スターを描き続けたのは、日本に死をもたらしたものの正体を暴きだそうとした行為からではなかっただろうか」(*2)と評されています。 常に光の産物である「写真」とともにあり、その姿は永遠の可傷性(Vulnerability)を称えているようです。
写実的で偏光に晒された人物像以外にも、薔薇も好んで描かれました。その一連のシリーズは、宇宙の先を想像させる薔薇の花びらの迷宮の奥、いわば「あの世」の光景とも思える静かな激しさを感じさせます。オーロラを思わせる色彩を持った人物像や薔薇の絵画は、プラズマ粒子が引き起こす現象だと合田は語っています。
プラズマとは、個体、液体、気体に続く物質の第四の状態を指し、自然界でいうところの雷や太陽、また例えばロウソクなどの炎も、物質が燃えることによって温度が高くなるため、燃えている物質自体が電離しプラズマ状態になっているといわれます。たしかに、合田の絵画にはプラズマ放電を思わせる色彩が多く現れ、彼女の作品を語る上で映画スターのポートレート写真の偏光と同様に、独特な色彩の基盤となっていると言えます。
様々なメディアで作品を制作した合田佐和子ですが、今回の個展では、彼女の金字塔とも言える70年代から2000年代に描かれた、銀幕スターや「眼」の油彩画とドローイングなどをご紹介する予定です。是非ご高覧いただければ幸いです。
(*1)「合田佐和子 光へ向かう旅」平凡社、2017、p. 2-3, 6-11
(*2)「森村泰昌と合田佐和子」、高知県立美術館、2001
参考文献)「合田佐和子 映像ー絵画・オブジェ・写真ー 1958-2003」、松濤美術館、2003
*同時開催・小谷元彦個展 「Tulpa –Here is me」