柳幸典
個展
Wandering Position 1988-2021
2021年3月6日 (土) - 4月3日 (土)
《Wandering Position》「第4回リヨン・ビエンナーレ」トニー・ガルニエ・ホール、スイス、1997年 ©Yukinori Yanagi
開廊時間: 火・水・木・土 12:00 – 18:00、金 12:00 – 20:00
*休廊:日・月・祝日
*新型コロナウイルス感染拡大防止への配慮から、オープニングパーティは行いません。
*ご来場に際してのお願いが文末にございます。
ANOMALYでは、2021年3月6日 (土) – 4月3日 (土)まで、柳幸典 (やなぎゆきのり) 個展「Wandering Position 1988-2021」を開催いたします。
Wandering Position (さまよえる位置) は作家としてのスタート地点のコンセプトであり、たびたび作品名、展覧会名として使用されてきました。本展では、一匹の蟻を放ちひたすら追いかけ、赤いチョークでその痕跡をたどる同シリーズより、数メートルに及ぶ大型の紙に描かれた本展のための新作と1980 – 90年代にアメリカで制作された貴重な作品を展示いたします。これらの作品群は柳がイェール大学大学院1年目の1988年、自分は何者かを模索し始めた時期に、アトリエの床を這う蟻の跡を追うことから始まった《アント・フォローイング・プラン》というシリーズです。その後、蟻が砂を運び移動することにより、砂絵で描かれた国旗や貨幣という人間の作ったシステムを形骸化していく柳のアイコニックな作品《アントファーム・シリーズ》へと発展していく重要な作品です。さまよい続ける蟻は追いかける者の巨大さゆえに、その存在に気付くことはありません。
蟻には認知できない金属の境界 ー繰り返し障壁に突き進む蟻の軌跡が赤線の密な交錯に残されているー は、物理的に存在する境界であり、不可視でありながら人の行動規範となる「仮想の境界」のメタファーでもある。そこでの蟻は、人間の存在状況を行為とする代役なのである。
富井玲子 「柳幸典展 ― あきつしま」 広島市現代美術館 展覧会図録テキストより抜粋
《Wandering Position》制作風景 2021年 ©Yukinori Yanagi
左: 《グランド・トランスポジションー139°52’09”36°33’52″》「アート・ドキュメント’87」栃木県美術館、1987年
撮影: 酒井啓之 ©Yukinori Yanagi
右: 《ザ・アントフォローイング・プラン》「ハモンド・ホール・プロジェクト」
イェール大学美術学部彫刻科ハモンド・ホール、コネチカット、アメリカ、1988年 ©Yukinori Yanagi
柳幸典 (b.1959-) は、日本の美術大学、美術界の閉塞感に疑問を抱きながら、もの派世代の作家を師に、昨年惜しくも逝去した原口典之の作品などにも影響を受けつつ、1986-87年の大規模なインスタレーションやパフォーマンスの発表を最後に、1988年にイェール大学大学院へ留学のため渡米しました。90年代に入り、1993年にはヴェネチア・ビエンナーレで《ザ・ワールド・フラッグ・アントファーム》を発表、アペルト部門で日本人として初めて賞を受け、国際的な評価を得るに至ります。1995年グッゲンハイム美術館で開催されたグループ展「スクリーム・アゲインスト・スカイ」では刺激的な日本国旗のネオン作品でNYの街を照らしました。国際的な数多くの作品発表の機会を得、マーケット的な成功も約束される中、2000年のホイットニー・バイアニアルでアメリカ国旗をモチーフとした作品を出品した後に日本に帰国します。
左: 《ヒノマル・イルミネーション》(1992年) 「戦後日本の前衛美術 スクリーム・アゲインスト・ザ・スカイ」
グッゲンハイム美術館、ニューヨーク、アメリカ、1995年 ©Yukinori Yanagi
右: 《ザ・ワールド・フラッグ・アントファーム》(1990年)
第45回ヴェネチア・ビエンナーレ (アぺルト’93受賞)、イタリア、1993年 ©Yukinori Yanagi
戦後日本の近現代美術が政治性・社会性を希薄にしてきた中で、柳は国家、体制、資本主義などのシステムと自分自身の立ち位置を常に意識し、継続的な思考で制作に向かっています。作品には日常的にある素材 (ソフビ、ネオン、玩具など) ながら、文化的な意味が付与されたものを用いたもの、発表の場となる土地との関連性から導き出されるものなど、作品の方法論も、時代や具体的なテーマに従って変遷、発展し続けています。それらの作品は視覚的なインパクトがありながら、モノとしての完成度が高く、見る者それぞれの視点により様々な読み取りが可能です。そして近年の犬島、現在の活動の中心となっている百島とその周辺での様々な大規模プロジェクトは、経済を優先してきた日本が歩んできた歴史を見つめなおし、未来へとつなぐ実践的なアートワークなのです。
左: 《スタディ・フォー・アメリカンアート-スリー・フラッグス》(2012年) ©Yukinori Yanagi
右:《バンザイ・コーナー 2020》(1991/2019年) 「Waste Land」 ANOMALY、東京、2019年
撮影: 木奥恵三 ©Yukinori Yanagi
東日本大震災から10年が過ぎ、被災者への補償、原発事故の処理も十分に進まぬまま、私たちはCOVID – 19による世界的な未曽有の危機に見舞われています。国民の保護と安全を目標としたワクチン接種や経済的補助のため、国による国民の管理、人や物の移動を規制する国境の厳格化が進むのは現実です。そのような状況の中で、柳の言葉のように「移動、交通、位置をずらしていくことで見えてくる地平へ」としなやかにしたたかにwander (さまよう) 事を考える。気の遠くなるような距離と時間を示す赤い命の痕に、柳幸典という作家の視線の先が今だからこそはっきりとした輪郭を伴って見えてくるのではないでしょうか。
《ワンダラー》 (2014年) ©Yukinori Yanagi
<柳幸典 略歴>
1959年福岡県生まれ。イェール大学大学院美術学部彫刻家修了。
1993年、第45回ヴェネチア・ビエンナーレに選ばれ、アペルト部門を日本人で初めて受賞する。以後ニューヨークにスタジオを構え、1996年サンパウロ・ビエンナーレ (ブラジル) 、1997年ビエンナーレ・ド・リヨン (フランス) など多くの国際展に招待される。
2000年のホイットニー・バイアニュアルでは、ニューヨーク在住の作家として外国人で初めて選ばれる。2018年シドニー・ビエンナーレでは様々な作品を組み合わせた大規模なインスタレーションを発表した。1992年に直島コンテンポラリー・アート・ミュージアム (当時) の開館に伴い個展に招待された際に銅の精錬所廃墟がある犬島に出会い、1995年「犬島アートプロジェクト」を着想する。2008年、明治の近代産業遺産と昭和の三島由紀夫のメッセージに自然エネルギーの技術を融合させた美術館、「犬島精錬所美術館」を完成させる。
ニューヨーク近代美術館やイギリスのテート・ギャラリーなど多くの美術館に作品が収蔵され、ユーモアと社会性を帯びた挑発的作品内容は常に物議を醸し、その創作行動は美術の枠に納まらない。
参考文献:
「柳幸典展 ― あきつしま」 広島市現代美術館図録 2000年
柳幸典 「犬島ノート」 株式会社ミヤケファインアート2010年
柳幸典 「ワンダリング・ポジション」 BankART1929 2016年
柳幸典 アーティストページ
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