2024年1月27日 (土) - 2月24日 (土)
*好評につき、2月23日(金・祝)も開廊いたします。
オープニングレセプション: 1月27日 (土) 17:00 − 19:00
*作家も在廊いたします。
トークイベント: 2月17日 (土)17:00 − 18:30
登壇者: 横山裕一、金澤韻 (現代美術キュレーター) *敬称略、順不同
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ANOMALYでは、1月27日 (土) より2月24日 (土) まで、横山裕一 個展 「アースデイ」 を開催いたします。
《禅刹》(2018)、襖にアクリル、マジック、H182xW289cm ©︎Yuichi Yokoyama
横山裕一 (1967年、宮崎県生まれ) は、武蔵野美術大学油絵科卒業後、ベニヤ板にペンキで風景や人物を描きながら、自身の絵画表現を模索する日々を過ごした後、2000年頃から「時間を描く」ことができる漫画へと表現の領域を広げ、2004年に『ニュー土木』で単行本デビューを果たしました。
疾走感のある描線やオノマトペ、性別も国籍も超えたキャラクターなどを特徴とする横山の独自の表現は、「ネオ漫画」と称され、国内のみならず海外でも高く評価されています。
これまで、『PLAZA』、『燃える音』、『ルーム』、『ICELAND』、『世界地図の間(ま)』、『ベビーブーム』、『アウトドアー』、『NIWA』、『トラベル』など数々の著作を生み出し、その多くは、フランス、アメリカ、イタリア、スペイン、ロシア等で翻訳出版されています。
図①:『PLAZA』(2019)、888ブックス、p.211 ©︎Yuichi Yokoyama
昨年には、構想から完成まで実に約9年の歳月を掛けて制作された『ネオ万葉』が刊行されました。『万葉集』や『古今和歌集』などの173首の和歌を元に再構築された22の物語から成る本著では、オノマトペのリズムと和歌のリズムを見事に融合させ、古典和歌の新しい景色を描き出し話題となりました。
ジャンルを横断する横山の表現は現代美術の領域でも注目を集めています。「横山裕一 ネオ漫画の全記録:わたしは時間を描いている」(川崎市市民ミュージアム、神奈川、2010年)、「YÛICHI YOKOYAMA: WANDERING THROUGH MAPS, UN VOYAGE À TRAVERS LES CARTES」(Pavillion Blanc、コロミエ、フランス、2014年) など大規模な個展が国内外で開催されたほか、「六本木クロッシング2007:未来への脈動」(森美術館)、「あいちトリエンナーレ2013」、「世界が妙だ! 立石大河亞+横山裕一の漫画と絵画」(広島市現代美術館、2016年)、「ロジカル・エモーションー日本現代美術展」(ハウス・コンストルクティヴ美術館、チューリッヒ/クラクフ現代美術館、ポーランド/ザクセンアンハルト州立美術館、ドイツ)、「CHILDHOOD: Another Banana Day For The Dream-Fish」(パレ・ド・トーキョー、パリ、フランス、2018年) など数多くの国際展やグループ展に参加しています。
また、2021年には、常磐橋タワーに8mにおよぶ絵画作品が恒久設置されました。
「横山裕一 ネオ漫画の全記録:わたしは時間を描いている」展示風景、川崎市市民ミュージアム、神奈川、2010年
横山の漫画作品には明確なストーリー展開はなく、性別/年齢/国籍/時代を超越した登場人物の、最小限に抑制された意味不明な会話や、非友好的かつ目的不明な行為、謎の物体が移動や変形する様子などの描写は、巧みなコマのサイズと密度により連続展開することで、過去のような、未来のような、見たことのない世界を、純粋な時間の流れとともに表出させます。同時にそれは、人間とは異なる時空を生きる人間以外の生物の俯瞰的視点で、この世界を観察、記録しているかのようです。時代や社会により形作られた人間の倫理や規範、それに基づいた生活環境、行動や感情、性別や職業はおろか、「時間」という概念すら意味を成しません。
さらに、「ドドドドド」、「ワーワー」、「ゴオオオ」などの動きや喧騒を表すオノマトペが大胆に繰り返し配されることにより、鑑賞者の視覚に持続的なノイズが生じます。それは時にハーシュ・ノイズ*¹⁾を浴び続けた時のような、空間感覚も時間感覚も消失するような興奮と没入の感覚を私たちにもたらします。
1990年代から2000年代中頃にかけて描かれた板絵や、漫画と並行して制作されたスクリーントーンを用いた絵画作品にも、漫画表現に通底する俯瞰的視線が見て取れます。夥しい数のキャンバスボードに描かれた《わたしたち》シリーズは、まるでヒトの顔の標本画のようです。
《三人 (わたしたち)》(2013)、紙にスクリーントーン、H36xW46.5cm ©︎Yuichi Yokoyama
漫画作品における止め処ない展開の連続とは対照的に、絵画作品では、時間の流れから逸脱した時空の隙間で世界が静止しています。ドローン (持続音) のようにその余韻だけが永遠に続くかのような不穏な画面は、明示されない物語の導入や、何か巨大な謎を秘めたコマを私たちに指し示しているようです。
《タンカーと高層マンション》(1992)、板に油性ペンキ、マーカー、ニス、H180.4xW274.5cm ©︎Yuichi Yokoyama
本展では、横山の最新の絵画《協力》(2023年) および立体作品《アースデイ》シリーズ (2023年)が発表されるほか、東日本では初披露となる襖絵《禅刹》、過去の代表的な絵画作品、ドローイングや漫画原画などが一堂に会します。
タイトル「アースデイ」は2019年刊行の単行本「プラザ」p211に登場する擬人化された地球像 (図①参照) を私の造作物としては極めて珍しい立体作品に再現した最新作だこの地球には土星同様の輪があり本作では複数色のそれを交換可能で会期中時々色を交換展示替えを実施 (しないかもしれない) また漫画の中に無いがこの地球は東西南北4面に顔が描かれ現代の阿修羅像となっているアースデイとは本来〈地球の日〉という記念日を意味するというが由来や何をする日かは不明だ この他壮烈な異世界の絶景を描く未発表絵画もあります〈巨大です〉
― 横山裕一
《アースデイ 1》(2023)、プラスチック、発泡スチロール、アクリル、マジック、石、H34.8xφ35cm ©︎Yuichi Yokoyama
Photo by Ichiro Mishima
横山の作品世界を通じて、多様な視点や時間の可能性について想像を巡らせながら世界を見つめ直すこと、これもまたもうひとつの「アースデイ」に違いありません。
約10年ぶりとなる横山裕一の待望の個展です。
是非本展のご高覧を賜りたく、皆様のご来場をお待ちしております。
会期後半の2月17日(土)には、「横山裕一ネオ漫画全記録:わたしは時間を描いている」展 (川崎市市民ミュージアム、2010年) を企画したキュレーター、金澤韻氏を迎えてトークイベントを開催いたします。詳細は、ArtStickerおよび弊廊のホームページやSNSをご覧ください。
また、会期中には、最新作をフィーチャーした作品集『アースデイ』も刊行予定です。巻末には金澤韻氏による評論も収録される予定です。こちらも是非ご期待ください。
*1) 金属片やシンセサイザー、もしくはミキサーフィードバック等を発信源にしてギターペダルやミキサー、アンプでそれらを増幅変調させた途方もない爆音のノイズ。日本の代表的アーティストにメルツバウ、インキャパシタンツなど。
参考文献:
角奈緒子「妙な世界へようこそ!」『世界が妙だ! 立石大河亞+横山裕一の漫画と絵画』広島市現代美術館、2016年
イトウユウ「立石大河亞と横山裕一におけるマンガ表現 – 記号、コマ、赤塚不二雄」『世界が妙だ! 立石大河亞+横山裕一の漫画と絵画』広島市現代美術館、2016年
竹崎瑞季「まみえる、くり返し」『まみえる 千変万化な顔たち 展覧会カタログ [Vol.2]』丸亀市猪熊弦一郎現代美術館、公益財団法人ミモカ美術復興財団、2021年